ラグナレク
エピローグ アルヴィースは太陽の光がさんさんと降り注ぐ中、木の根に寄りかかって座り、ファグラヴェール王国の魔道士が持ってきた手紙を読んでいた。先にファグラヴェール王国に帰ったシグルズからのものだ。 手紙にはアルヴィースたちが旅立った後、ボルグヒルド王妃が城に残っていた唯一の王子であるシンフィエトリを毒殺し、国を追放されたことが書かれていた。シグムンド王とゲンドゥルは〈最後の戦い〉で命を失い、百人以上いた魔道士もほとんど死んでしまっていた。生き残ったのはたったの五人で、魔道士見習いは二十人ほど生き伸びていた。城は半壊し、魔道の塔は折れてしまった。兵士は五十人程度生き残り、貴族は十人あまり、民は六十人程生きていた。駆け落ちしたカーラとその恋人は、魔物ではなく酒場の喧嘩で殺されていた。 悲しい知らせばかりが続く中、唯一の明るい話は、魔道士見習いのフラールが生きていることと、シグルズが王位を継いだこと、グズルーンが王妃になるだろうということだった。アルヴィースはグズルーンが言っていたとおり、長年の思いをとげたんだなと考えた。 手紙の最後には、できるならば帰ってきて国の再建を手伝ってほしいとあり、アルヴィースは少し考えこんだ。 アルヴィースは今、ガグンラーズにいた。以前魔道でつくった地下の菜園が、地震によって地表に現れ、そこに生えていた草木が自然繁殖し少しずつ周囲に広がっていた。 フュルギヤが住んでいたヘルブリンディ城は、跡形もなくなっていた。〈滅びの時〉が訪れた時、アルヴィースの張った結界が破れてしまい、地下に住んでいたあの痩せこけた人々は落盤にあって死んでいた。身体が小さなローニだけがうまく岩の隙間に入りこみ岩につぶされずに生き残っていた。彼は瓦礫の下で何日も意識を失っていたところを、約束通り迎えにきたシグルズとアルスィオーヴに助け出されたのだ。 シグルズはそのあとファグラヴェール王国に帰っていき、アルスィオーヴはローニを連れて《スヴァルトアルフヘイム》にいるアルヴィースのもとに戻ってきた。 アルヴィースは怪我がよくなるまで、《スヴァルトアルフヘイム》を治めるギースルのもとにいた。 長い間生死をさ迷い、やっと意識が戻ったとき、深刻な顔をしたギースルから、彼の父親がアーナルであり、アーナルの遺言により〈闇の妖精〉の王になったと知らされ、アルヴィースは戸惑い、どうして今まで黙っていたのかと怒ったが、〈光の妖精〉だろうと〈闇の妖精〉だろうと同じギースルであることに変わりないとすぐに受け入れた。ギースルのほうも〈光の妖精〉の王を殺してしまったアルヴィースを責めず、これまでどおりに接してくれた。新たな〈光の妖精〉の王に、先王を殺したのはアルヴィースではなく、ヴィズルだから王殺しで罰しないでほしいと交渉もしてくれ、長い話し合いの結果、新たな《アルフヘイム》へ行くことは禁じられたが、刑罰は免れることができた。 いずれ、《アルフヘイム》に帰れるようしてやるとギースルは言っていたが、今のところはそれで充分だった。 アルヴィースは身体が動かせるようになると、緑のあるガグンラーズへアルスィオーヴとローニとともに移った。ここはかつてのガグンラーズと違い、光に溢れ、緑に溢れた地になっていた。ヴィズルに〈光の妖精〉の王を殺させてしまったことを悔やんでいるアルヴィースの心を癒すのに、最適の場所だった。 〈闇の妖精〉の王となったギースルはアルヴィースが出て行くと、〈闇の妖精〉が安全に暮らせる日の当たらぬ地を探して、一族を連れて旅立っていった。フュルギヤも彼についていった。 アルヴィースの指には、フュルギヤに渡したはずの婚約指輪がはまっていた。ヴィズルに言わされたのではなく、ほんとうに心から結婚したいと思ったときにもう一度渡してほしいと、彼女から返されてしまったのだ。 ギースルは「父と母は、自分たちができなかったことを叶えるために、それぞれの子どもをつくった気がする。光の中に住む〈光の妖精〉と闇の中に住む〈闇の妖精〉との違いは大きいが、おまえたちなら人間の血が緩和してくれるだろう」と言っていたが、今はまだ、身体がまだ回復しきっていないアルヴィースには闇の中にいるのがつらく、太陽の光のもとにでたことがないフュルギヤには、光がつらすぎた。どちらにも時間が必要だった。 「ファグラヴェールに帰るぞ」 アルヴィースは、柔らかい草の上に寝転がり、のんきに歌を歌っているアルスィオーヴに言った。アルヴィースの隣で、魔道の書を一生懸命に読んでいたローニが顔をあげる。 「ぼくも一緒にいっていい?」 「もちろんだ」 アルヴィースはやさしい笑みを浮かべて言った。 |
このサイトにある全ての作品の著作権はayanoに帰属します。無断転載、引用などは一切、禁じます。