ラグナレク
第三章 魔がひそむ城・3 古井戸の底に隠された隠し通路からヘルブリンディ城までは、思った以上に距離があった。侵入者を城へ辿りつかせないために迷路となっている狭い通路を抜け階段の前につくと、フュルギヤはアルヴィースたちにこれを登ればすぐに城だと教えた。 「ひぇ、やっとかよ。寒くて死にそうだ」 雷の神フロールリジによっておこされた豪雨のせいですっかり濡れ鼠となったアルスィオーヴは、寒さのあまり歯をがちがちと鳴らしていた。同じようにびしょぬれのシグルズとフュルギヤも寒くてならない。炎の精の性をもつアルヴィースだけが、自分の体温をあげて服を乾かし快適な顔をしている。 フュルギヤは、早く城に戻って暖まろうと階段を駆け上がった。暗闇の中で白い肌が淡く輝き、ふわりふわりと身軽に階段を駆け上がる様はなるほど妖精の血をひく者らしい。その後ろを落ちついた足取りでアルヴィースが続き、寒くてならないアルスィオーヴが頼むから走ってくれと彼をせかす。 「それから、マント、貸してくれ。おまえ、濡れてないんだからいいだろ」 アルスィオーヴに言われ、しかたなさそうにアルヴィースは魔道士の紋章の入ったマントを渡すと階段を身軽に走り出した。足の速いアルスィオーヴもたいして遅れずについていく。たちまち置いて行かれてしまったシグルズは、松明で階段を照らしこんな段の狭い階段をよく走れるものだと感心した。
シグルズが先に行ってしまった三人に追いつくと、アルヴィースたちは行き止まりとなった階段の上でもめていた。 「どうした」 シグルズが声をかけると、アルヴィースがこの先に〈闇の妖精〉がいると答える。 「罠だ。戻ろう」 アルヴィースは階段を降りようとした。 「罠なんてないわ」 フュルギヤが慌てて言い、アルスィーオーヴが歯をがちがち鳴らしながら両手を軽くあげて、アルヴィースを止める。 「おいおい、戻るって下は水浸しだぜ。それにおれ、これ以上濡れたままでいたら、凍え死ぬんだけど」 「わたし、罠にかけたりしないわ。どうしてそんなことを言うの」 「アルヴィース、前に進もう」 シグルズが口をはさんだ。 「本当に罠なら、これみよがしに気配などさせないはずだ。それに罠があったとしても、ここで凍え死ぬよりはましだ」 シグルズの言葉に、アルヴィースはしぶしぶ引き下がる。 「本当にわたし、なにもしてないわ」 フュルギヤが困惑顔で言い、石壁のくぼみを押した。階段を塞いでいた壁が重々しく横に動き、暖かな空気が流れこんでくる。アルスィオーヴは安堵するととも、驚きの声をあげた。 「やや、〈闇の妖精〉の気配が充満している」 「だから、わたしが言っただろう」 アルヴィースが不機嫌に言う。 「どこにいるの?」 フュルギヤが不安そうに〈闇の妖精〉の姿を探して、きょろきょろとする。 「どこにいるって? あんた、〈闇の妖精〉の血をひいてるんだろ。同族がどこにいるか、わかんないやつがいるか」 アルスィオーヴの言葉に、アルヴィースははっとする。 「疑って悪かった。きみが〈光の妖精〉も〈闇の妖精〉も見分けられないことを忘れていた」 フュルギヤに向かって言う。 「そんなことあるのかよ」 アルスィオーヴがびっくりする。 「魔力を嫌う国に生まれたせいか、フュルギヤ姫は妖精としての本能が働かないんだ。だから、妖精としての感覚も働かず、強い魔力を持っていながら、自然と使えるようになるはずの魔法も使えない」 「よかった。信じてくれて」 フュルギヤはほっとして、廊下を歩き出した。 「この部屋を使うといいわ。城の外側にある部屋で申し訳ないけど、ナールに見つからない場所がいいから」 アルスィオーヴは部屋に入るなり暖炉の前に立ち、アルヴィースに火をつけてくれと頼んだ。途端に薪が燃え上がり、部屋が暑いくらいに暖まる。 「あなた、呪文を唱えなかったわ」 フュルギヤが驚いて、アルヴィースを見る。 「簡単な術に呪文はいらないし、今のは魔法だ。魔法を使うのに呪文はいらないよ」 フュルギヤはよく理解できずに首を傾げる。 「きみは、何年もゲンドゥルから魔道を教わっていたのに、なにもわかっていないんだな」 アルヴィースがあきれて言い、「わたしと同じだ」とシグルズが暖炉の前で服を乾かしながら言う。アルヴィースはかぶりを振ると、部屋に怪しいものがひそんでいないか調べ始めた。彼は次から次へと小さな魔物を見つけ、退治していく。フュルギヤがこんなところに魔物がいたのかと目を丸くする。 「気にすんな。お姫様は、火にあたってなさい」 アルスィオーヴが、フュルギヤにアルヴィースのマントをかけてやる。マントから淡い花の香りが漂い、フュルギヤは水晶と同じ香りだとうれしそうに顔をうずめた。 「魔物退治は、あいつに任せておけばいいんだよ。自分だけ服を乾かしてのうのうとしてたんだから」 言外にあいつはずるいんだという意味を含めてアルスィオーヴが言い、アルヴィースは苦笑した。 「だったら、アルスィも魔道を習えばいいじゃないか」 「おまえが使ったのは、魔法じゃないか。魔道を習っても意味ないよ。それにおれには魔力はない」 アルスィオーヴが言い返し、フュルギヤは「どうして、魔力がないのにあなたは魔道と魔法の違いがわかるの?」と聞いた。フュルギヤにはいまだにその違いがどこにあるのかわからないのだ。 「それゃ、見りゃわかるだろ」 「見る? なにを」 フュルギヤは、ますますなにを言われているのかわからなくなる。 「あんた、ほんとに妖精の感覚が働かないんだな。おれがだれかわかってないだろ」 「アルスィオーヴでしょ」 「そういうことを言ってるんじゃない。おれは元〈光の妖精〉なの」 フュルギヤは驚きの声をあげ、まじまじとアルスィオーヴを見た。 「ぜんぜん、わからないわ」 「むっとしたりしないのかよ」 「どうしてするの?」 「ふつう、〈光の妖精〉と〈闇の妖精〉は嫌いあうんだぜ」 フュルギヤは目をぱちくりとさせる。 「あなたたち、わたしのこと嫌いなの?」 「んにゃ。あんた、〈闇の妖精〉らしくないからな」 アルスィオーヴの言葉に、シグルズも同意する。 「問題を起こす〈闇の妖精〉は、もっと禍々しい感じがする。きみが邪悪でないことぐらいは、魔道の使えないわたしにもわかるよ」 彼らの返事にフュルギヤはにこりとし、アルヴィースからも答えを聞こうとしたが、彼は続き部屋に行ってしまっていた。 「アルヴィース、腹が減ったよぉ」 アルスィオーヴが大声を出し、不機嫌な顔をしたアルヴィースが部屋から出てくる。 「アルスィ、わたしはおまえの召使いか」 「だって、腹が減ったんだからしょうがないだろ。おまえしか、飯の調達できないんだし。なんかうまいもの食わしてくれよ」 「ドーヴィンの実があるだろ」 冷たく言い、アルヴィースはまた隣の部屋に行ってしまう。 「うへぇ」 アルスィオーヴは顔をしかめはしたものの荷物から袋を取り出して、暖炉の前に座り直した。 「すんげぇまずいけど、食うかい?」 フュルギヤに実を勧め、彼はばりぼりと実を食べ出した。一口食べては必ず文句を言い、目を白黒させたり顔をしかめたりするアルスィオーヴを見ていたフュルギヤは思わず笑いだした。 「あなた、おもしろいわ」 「うん。みなにいい男だって言われる」 アルスィオーヴはまじめな顔をして言い、そのまじめな顔もどことなく滑稽でフュルギヤは吹き出した。 「わたし、そんなこと言ってないわ。それにしても、本当においしくないわね」 ドーヴィンの実を指して言う。 「だろ」 「さぁ、戻らなくちゃ。ナールがわたしがいないことに気づいたら怒るわ。彼に見つからないように出てきたの」 フュルギヤは立ちあがり、アルヴィースのマントをとても大事そうに畳むと長椅子の上に置いた。服はまだ生乾きだったが、自室に戻って着替えればいいことだ。 「そのナールというのは、だれだ?」 シグルズが聞く。 「わたしの親戚なの。いまではここの王よ」 フュルギヤがいやそうに言い、アルスィオーヴとシグルズが同時に眉をひそめ、シグルズが口を開いた。 「なぜ、きみが王位を継がなかったんだ?」 「それは、彼が王位継承者だって言ってたから」 それが正しい選択でなかったと後悔しながら、フュルギヤはうつむいて言う。 「言われたから、黙って王にしちまったのかい? おれ、吟遊詩人だからいろんな噂知ってるけどよ、ナールなんて王子がガグンラーズにいたなんて聞いたことないぜ」 「そんなこと、わたしにわからないわ。だれも、ナールが王になっちゃおかしいなんて言わなかったし、あなただって水晶で話したとき、なんにも言わなかったじゃない」 「とにかく、会ってみればわかるさ。客としてここの主に挨拶しないわけにもいくまい」 シグルズが言い、フュルギヤは慌てた。 「だめよ。ナールに、ファグラヴェールの者を絶対に城に入れてはならないって言われてるの。見つかったら、殺されちゃうわ」 「きみは、それでも城に入れてくれたのか」 驚いたようすでシグルズが聞く。 「わたし、ナールがいやなの。最初の頃はなんでもうまくやってくれていい人だって思ったけど、本当はとってもひどい人だったんだもの。あなたたちならどうにかしてくれるんじゃないかって思ったし、せっかく遠いところからきてくれたのに、入れてあげないなんてことできないわ」 「だったら、なおさら彼に会わなければ。心配ない。我々はちゃんと受け入れられなかった場合のことも考えてやってきたんだ。王の怒りを買ったとしてもちゃんと切り抜けられるさ」 シグルズの落ちつき払った態度に、フュルギヤは安堵感を覚え微笑んだ。 「でもそれは、腹いっぱい食ってよく休んでからにしたいね。長い旅をしてきたんだ。疲れがとれるまでは、こっそりしてようぜ」 アルスィオーヴが床に寝転がって伸びをする。 「そうもいかないな。食料の問題がある」 隣の部屋にいながらもしっかりと話を聞いていたらしく、アルヴィースが部屋から出てきて言う。 「これ以上、この城の者たちに人の肉を食べさせるわけにはいかないだろう」 アルスィオーヴが、うへぇと顔をしかめる。 「そうだったな。城に入った者は二度と出てこないという噂もあることだし、早くやめさせたほうがいい」 シグルズも噂を思い出して同意する。 「ああ、そのこと」 フュルギヤはつらそうにうつむいた。 「ナールたちがよそからきた人たちを泊めて、眠っている間に殺していたの。それが一番簡単に食料を得る方法だって」 「それじゃ、おれらも眠っている間に、殺される可能性があるってことだな」 アルスィオーヴが、大げさに首をすくめる。 「隣の部屋に強い結界を張っておいたから、安心して寝室として使える」 アルヴィースが言い、「どのぐらい強いやつだ?」とアルスィオーヴが聞いた。 「魔物と〈闇の妖精〉は結界に触れただけで死ぬことになる。フュルギヤ姫は、あの部屋に近づかないようにしてくれ。あとで、姫用の結界も作る」 「まぁ、恐いのね」 フュルギヤは目を見開いて言った。 「でも、人間はどうするんだよ」 アルスィオーヴが聞く。 「眠る時、魔道で戸が開かないようにしておけばいい。斧を持ってきても開けられないよ」 「そりゃ、よかった。それなら、城の連中に見つかっても安心だな」 アルスィオーヴがほっとして言う。 「見つかりはしないわ。あの人たち、魔物が壁を破って襲ってくるから、外壁に面した部屋にきたりしないもの」 それを聞いたアルスィオーヴは、慌てて窓のある壁を見た。窓は何度も破られた後があり、何枚もの分厚い板で応急処置が施されていた。 「あんた、そんな危険な部屋をおれたちに使えっての? やってることが、無茶苦茶だぜ」 「静かに。だれかが近づいてくるようだ」 アルヴィースが首を傾けて言い、アルスィオーヴは自分で自分の口を押さえ、シグルズは剣を抜いた。 「そんな、だれもこないはずよ」 フュルギヤが大声をだし、アルスィオーヴが慌てて彼女の口を押さえる。 そう長く待つこともなく、戸が外から押されてきしんだ。 「〈闇の妖精〉だ」 気配を感じ取ったアルスィオーヴが小声で言い、アルヴィースはうなずいた。 「開かないぞ」 外から、話し声が聞こえてくる。 「そんなばかな。この戸に鍵などないぞ」 代わる代わる開けようとしているらしく、何度も戸が揺れる。 「魔法をかけたのか」 シグルズが聞き、アルヴィースは魔道だと訂正する。外の者たちはしばらく戸を開けようとしていたが、やがてあきらめたらしく戸を叩いてきた。 「フュルギヤ姫、中にいるんでしょう。こんな悪ふざけをしないで出てきなさい」 外からの呼びかけにフュルギヤは身を堅くする。 「ナールだわ。どうして、わたしがここにいるってわかったのかしら」 「彼も魔法が使えるからだ。参ったな。これでは状況が悪すぎる」 アルヴィースはかぶりを振って言った。 「逃げるかい? 窓を破れば、外に出られるんじゃないか」 アルスィオーヴが、さっそく窓を塞いでいる板をはがそうとする。 「アルスィ、結界に入ったほうが安全だ」 アルヴィースに言われ、アルスィオーヴは荷物を持って結界の中に飛び込んだ。 「兄上も」 「姫はどうするんだ?」 シグルズは戸を見据えたまま言った。 「どうにもできない。だから状況が悪いと言ったんだ」 「ねぇ、わたしがみんなを逃がしてくれるように頼むわ」 フュルギヤが言う。 「それは絶対にないな。しかたない。二人とも後ろに下がっていてくれ。兄上は危なくなったら、結界に入るんだ。姫は自分で結界を張って身を守れ」 フュルギヤは結界の作り方なんて知らないと思ったが、この状況でできないとも言えず、シグルズとともに後ろに下がった。 「フュルギヤ姫、戸を開けるんだ」 まだ、ナールは戸を叩いていた。 「いい加減、戸を開けられないふりをするのはやめろ。そのぐらいの魔道は簡単に破れるだろう」 アルヴィースは、戸の外にいる連中に向かって言った。 「だれだ、おまえは」 「わざとらしい芝居はやめろ。アーナル」 その途端、戸の向こうは静まり返った。 「アーナル?」 フュルギヤは、アルヴィースの言った名をぽかんとして繰り返した。 唐突に、戸がアルヴィースに向かって吹き飛んだ。アルヴィースはすぐさま魔道で戸を細かく砕き、茶色い埃に変える。 「きみ、もう少しましな魔道は使えなかったのかね」 ナールが咳込みながら、部屋に入ってくる。 「やはり、おまえが手下とともに住んでいたのか。姫が魔物が襲ってこないというから、そんなことだろうと思っていたよ。魔物は勝ち目のない相手の前ではおとなしいからな」 「つまらないね。しばらく、ただの〈闇の妖精〉としてきみと遊ぶつもりだったのに、そう簡単に見破られてしまっては。きみを見くびっていたよ」 ナールは、両手を軽く広げた。彼の体が黒い靄に包まれたかと思うと、たちまち、少しだけ顔立ちのいい好青年から残忍な目つきをした長い黒髪の男に変わった。 「きみとは実際に会うのは初めてだね。わたしが〈闇の妖精〉の王、アーナルだ」 アーナルはアルヴィースに向かって丁寧に一礼する。 「わたしをだましていたのね」 フュルギヤが叫び、飛びかかろうとしたが、シグルズが彼女を押さえこんだ。 「落ちつくんだ。きみにかなう相手じゃない」 暴れるフュルギヤに向かって、シグルズが言う。 「おや、竜殺しのシグルズくんもきていたんだね。となると、あの愉快なアルスィオーヴくんもいるんだろうね」 「あんた、ほんとにわざとらしいよ。いることがわかってるくせに言うんだから」 アルスィオーヴが、隣室から首だけをだす。 「おお、懐かしいね。アルスィオーヴくん。きみが《アルフヘイム(光の妖精の世界)》から追放されたとき、わたしの国に迎え入れてあげようと言ったのに、すげなく断ってくれたね」 「あんたの陰険な性格に付き合いたくねぇんだよ。そんなんだから、あんた、女にもてねぇんだ」 アーナルは、愉快そうに笑った。 「きみはいつだって、楽しいことばかり言ってくれるね」 それから彼は、部屋の中央で目を閉じ呪文を唱えているアルヴィースへと注意を戻した。 「おやおや、きみはなにをするつもりかね。わたしは、愛する娘と暮らしたいと思っただけだよ。それのどこがいけないのかい」 「うそつき。あなたが、わたしに人の肉を食べさせたんじゃない」 フュルギヤは、シグルズの腕の中で暴れながら叫ぶ。 「それはきみを生き延びさせるためにしたことだよ。きみだって、人の肉だって知ったあとも食べたじゃないか」 「自分の娘をいたぶって楽しいのか」 シグルズはフュルギヤを背後にかばい、剣を抜いた。 「おや、きみの使っている剣は、名剣グラムじゃないか。《スヴァルトアルフヘイム(闇の妖精の世界)》にいる黒小人が造ったものだね。我々を忌みながら、平然と我々の物を使うとはいったいどういうことかね」 シグルズはなにも答えず、切りかかった。アーナルが、鳥の羽のようにひらりと避ける。 「わたしを切ろうったって無駄だよ。わたしはきみよりも早く動けるんだからね。それにしても、きみの弟はさっきからなにをしているんだね。せっかく、時間を稼がせてやってるのに、いつまでも呪文を唱え終わらないんじゃ、わたしはあきてしまうよ」 アーナルは、突然、呪文に集中しているアルヴィースに向かって切りつけた。だれもがアルヴィースの首が飛んでしまうと思った瞬間、アルヴィースは後ろに飛びのいて剣を避けた。 「おや、さほど、呪文に集中していたわけではないようだね」 アーナルが片方の眉をあげ、前に踏み出した。それまでアルヴィースが立っていた場所から光の柱が上がる。光のもとでは暮らせない〈闇の妖精〉の王は光に包みこまれ、押し殺したうめき声をあげる。アルヴィースはもう一度呪文を唱え、アーナルを光の柱から出られないようにした。 「きみは、これを狙ってじっとしていたのか。わたしも、ずいぶんと簡単な手にかかったものだよ」 光の中でゆっくりと立ちあがり、アーナルは鼻で笑った。 「だが、偽りの光でわたしを倒せないぞ」 それまで傍観していた側近が、主人を助けようと部屋に入ってくる。シグルズとアルヴィースは、剣を構えた。 「やめろ」 アーナルは、一声で側近たちを下がらせた。 「わたしは、まだまだ先を楽しみたいんだ。今、殺してしまってはなんにもならん。今日のところはこれで帰るぞ」 側近らに言い、アーナルはアルヴィースたちに向かって優雅におじきをした。 「では、また近いうちにお会いしよう。そのときは、もっと楽しませてくれるものと期待しているよ」 光の柱がガラスのように砕け、アルヴィースたちを吹き飛ばした。 すぐに爆風は収まり、隣室に隠れていたアルスィオーヴが部屋から顔だけ出すと、〈闇の妖精〉の王と側近たちの姿はなくなっていた。 「なんだかんだって言って、逃げてんじゃねぇかよ。アルヴィース、平気か」 アルスィオーヴは結界から出てきて、意識を失っているアルヴィースを抱き起こした。シグルズとフュルギヤも頭を振りながら立ちあがり、心配そうにアルヴィースを見る。 「心配ない。術を返されて、少し堪えただけだ」 アルヴィースは弱々しく答え、再び目を閉じた。
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